かかしに占領された村のおはなし
少子化が進むと、当然のように社会全体が老齢化してきますよね。
生まれてくる赤ちゃんの数よりも、長寿化で長生きする高齢者の方が
多いのですから。
香川県のある島では人の数よりもネコの方が多いとか。
今回訪れた村では、ネコならぬ、かかしが多いのです。
かかしと言うよりも、ほとんど人形と呼ぶ方がぴったりなんですけどね。
所は、徳島県三好市の山村。
見頃という地区なんです。
「天空の村」という別名もあるんですよ。
人口が29人。
最寄りの電車の駅(大歩危)からバスで70分もかかる山深い里です。
国道だと言っていましたが、
比較的広い舗装された道もあるにはあるものの、
大半は地形の関係で、対向車があればどちらかがバックして
道を譲らねばならないという道路状況のところです。
曲がりくねった山道を上へ上へと登っていきます。
「へぇ、こんな山深い地域にも人が住んでいるのか」、
と思いつつバスに乗っていたら、やっと着きました。
終点の「見頃」地区。
まず、目に入るのが畑仕事をしている老夫婦。
炎天下での作業を繰り返したためか、衣服は色あせています。
でも、「人」ではなかったのです。
「人形」。
それも等身大の。
夫婦の人形が農具を使って作業をしているんですね。
腰をまげ、懸命に野良仕事をしている人形に、
思わず「こんにちは、お邪魔します」とあいさつしたくなりました。
昼寝のおばさんもいましたよ。
かかし200体、人口29人
この見頃地区では子供がいなくなって、バス停の傍の学校は
廃校となっていました。
まず目に入ったのが「かかし工房」。
戸を開放していて、誰でも入れるようになっています。
なかは「かかし」ならぬ「人形」が所狭しとばかりに並んでいます。
里の等身大の生活のなかの人形たちです。
なので、老人が多いです。
あまりのリアルさに思わず声をかけそうになりました。
徳島を代表する「阿波踊り連」もありましたよ。
結婚式の様子や、村のエライさんたちの姿、おばあちゃんに抱かれた
孫たち。
さまざまな人形が、時を忘れさせてくれます。
マスコミでも有名になって
たまたま、ここを訪れたドイツ人留学生がネットで動画を発信したところ、
たちまち話題になったということです。
不便な田舎の里。
若者から見放されたような地域。
昔ながらの生活を繰り返しているお年寄りたち。
便利とは真反対の社会かもしれないけれど、
それと人々の幸せとは関係がないように見受けられます。