漂流郵便局 心ゆさぶられる宛先のない手紙のかずかず
漂流郵便局。
英語では「 Missing Post Office」と表示されます。
なんだか捉えどころがない郵便局の名前ですが、まさにその通り。
揺れ動く人間社会や自分のこころの底を洗いざらい映し出してくれる
「郵便局」なのです。
言い換えれば、届け先のない思いを預かってくれる郵便局
とでも言いましょうか。
手紙の宛先は、故人や未来の子孫、別れた恋人・・・など。
いいえ、相手が人間だけに限定されるものではありません。
別れたペット、なくした愛用品などにも。
漂流郵便局は「郵便局」じゃない
この郵便局は旧粟島郵便局舎を利用した1つの芸術作品です。
日本の芸術家・久保田沙耶さんが手がけました。
郵便局という名前がついていますが個人が運営するもので、
日本郵便株式会社とは関係ありません。
2016年にはイギリスに分局ができました。
この漂流郵便局の局長は、
かつて粟島郵便局に実際に勤務されていた中田勝久さん(85歳)。
この建物の所有者でもあります。
今はもちろん、現役の郵便局員は引退されていますが。
笑顔で迎えてくださいます。
漂流郵便局の始まり
2013年(平成25年)の第1回瀬戸内国際芸術祭で誕生しました。
芸術家・久保田沙耶さんがこの芸術祭に出展するため
作品のイメージを求めて立ち寄ったのが、
現住所にある旧粟島郵便局舎だったのです。
粟島の海岸にはいろんな漂流物が流れ着きます。
この建物の窓ガラスに映ったご自身の顔を見て、
海の漂流物と同じように「自分はここに流れ着いた」と
感じたそうです。
その考えが漂流郵便局を生むきっかけとなったわけです。
当初は瀬戸内国際芸術祭が開催されている、1ヶ月間のみの
開局予定でした。
会期中の局長:中田勝久さん、
局員:久保田沙耶さん
しかし、会期終了後も、月に約200通もの
届け先のわからない手紙が寄せられ続けたんですね。
そこで、制作者の久保田沙耶さんは
この漂流郵便局を継続することに決めました。
そのためにこの建物の所有者であり
企画・開催に深く関わった中田勝久さんに協力を仰いだわけです。
漂流郵便局って、どこにあるの?
では、それからひも解いていきましょう。
住所:〒769-1108
香川県三豊市詫間町粟島1317-2
交通アクセス
三豊市観光交流局のサイトをご覧ください。
芸術家・久保田沙耶さんって、どんな女性?
一口で言えば、かわいらしいヤングレディです。
2019年10月現在、イギリスに在住です。
久保田 沙耶/SAYA KUBOTAアーティスト。1987年、茨城県生まれ。
筑波大学芸術専門学群構成専攻総合造形、
東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修士課程、
東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻油画研究領域卒業。
日々の何気ない光景や人との出会いによって生まれる記憶と言葉、
それらを組み合わせることで生まれる新しいイメージやかたちを
作品の重要な要素としている。
焦がしたトレーシングペーパーを何層も重ね合わせた平面作品や、
遺物と装飾品を接合させた立体作品、さらには独自の装置を用いた
インスタレーションなど、数種類のメディアを使い分け、
ときに掛け合わせることで制作を続ける。
個展「Material Witness」(日英大和基金)や、
アートプロジェクト「漂流郵便局」(瀬戸内国際芸術祭2013)など、
グループ展多数参加。著書『漂流郵便局』小学館。
粟島って、どんな島?
香川県三豊市詫間町の須田港から連絡船で15分の位置にあります。
(強風になると欠航します)
人口200人ほど。学校は1つもありません。
子供がいなくなったのが先か、学校がなくなったから子供が
いなくなったのか、いずれにしろ、若者がいなくて
高齢者で占められていると言ってもいいほどの島です。
公共の交通手段はありません。
・かつては隆盛を誇った島です
かつては国立の粟島海員学校もあり、「船員の島」とも呼ばれたほどで、
島民の3分の1は学校関係者だったとか。
当時は島全体の生活水準も高かったと記憶しています。
その後、船員の需要が減少した関係で
昭和62年、90年の歴史に幕を閉じて廃校となりました。
その頃から島の人口が減りましたね。
届いた手紙の取り扱いについて
漂流郵便局に届いた手紙は「アート作品」として扱われます。
そして、所有権は送り主から離れて局の展示物になります。
なので、当事者には返還されません。
そして、誰でも閲覧できます。
局内ですすり泣く人も珍しくない
局内では展示物(手紙)を読んだり、新しく書いたりできます。
局内で書いたはがきはここに入れます。
手紙を1通読めば胸が熱くなって数通も読んでいくうちに
涙がとまらなくなり、やがて嗚咽となってしまう人も珍しくは
ないとか。
こんな手紙もありました。
お空のキッキー、元気ですか?この間20回目の”クッキーありがとうの日”、過ぎたよ。どんどん、いっしょにおった日が遠くになるなぁ。でも、それはまた会える日が近づいとるっていうことやなぁ。
とし取って、ボケちゃんになってグルグル回っとったり、眠ってばかりだったり、やせて白髪も多くなったり、足も弱ってきて立なくなったり、あっという間におばあちゃんになったけど、かあさんは、あの頃のクッキーが一番好き。いとおいしくて仕方がない。時々、会いたい思いが押し寄せてきて、どうしようもないよ。
今、お空はどう?きっと全部の病気がよくなって遊んでばっかりやろうな。たまにはおうちに帰って来とる? せめて夢にでも出てきてよ。。。。かあさんより
10代初めにお二人に別れてしまった私はあなた達にありがとうを伝えておりません。65年位すぎてしまったけれど、改めて“お父さん、お母さん 育ててくれてありがとう。
おかあさん。あなたが昨夏亡くなった時は涙も出ませんでした。生前はお互い憎まれ口ばかり……。たぶん今会ってもきっとそう……。でもこの1年、幼い頃にかわいがってもらった記憶ばかりがよみがえります。プリンを作ってもらったこと。絵本を読んでもらったこと。ピアノを買ってもらったときが一番うれしかった
ようやく君に思いをとどけることができます。君と別れてから19年がたちました。生きていてくれたら君は30歳になっているんだよ。君はどんな人になっていることでしょう。
ほんと、泣けますよね。
漂流郵便局の開局日
開局日 : 毎月第2・第4土曜日
開局時間 : 13:00~16:00
手紙を出すには
はがきが望ましいです。
宛先
〒769-1108
三豊市詫間町粟島1317-2
漂流郵便局
粟島への渡り方
須田港から15分で渡れます。
須田公付近には駐車場が少ないので、
詫間駅からバスを利用されるといいです。(料金:100円)
船賃は片道330円です。
粟島行きの定期船が出る「須田港」。
ちょうど「瀬戸内国際芸術祭」が開催されている時期でした。
訪問した日は「瀬戸内国債芸術祭 2019」の開催期間中でした。
強風があると欠航になりますので、ご注意くださいね。
運賃は下記ホームページでお調べください。
(図)http://www.mitoyo-kanko.com/awashimaisland/
島の玄関にて
島民の松田悦子さんが発案した、廃棄されるブイを利用した
飾り物が笑顔で迎えてくれます。
じゃ、この細道を行けばいいのね。
漂流郵便局に着きました
中田局長が笑顔で迎えてくださいます。
開局日が月に2回だとは言え、ご高齢での3時間の立ち作業は大変なはず。
でも、来訪者には笑みを欠かされません。
これから心ゆくまで手紙(作品)を手に取ってみたいと思います。
見知らぬ人が書いた、送り先がない手紙だけに、魂を揺さぶられます。
参考:http://moshlock.com/kankou/kagawaken/hyouryuuyuubinkyoku/#i-20
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BC%82%E6%B5%81%E9%83%B5%E4%BE%BF%E5%B1%80